今期大河ドラマの「天地人」のサウンドトラックを購入した。
大島ミチルの作曲。
聴き始めたらもう止まらない。素晴らしい。素晴らし過ぎる。
しかし「天地人」のサウンドトラックは、一見同じ音楽の使い回しのようにも見える。
同じ曲調の曲が繰り返し出てくる。
しかしこれはライトモティーフと考えれば納得できる。
そもそもメインテーマにほぼ全ての要素が込められている。冒頭の序奏ファンファーレに続いて主要なライトモティーフが3つ(正確には3つめは1つめの変奏)が出てくる。そしてメインテーマ以外の他の曲は数曲の完全オリジナルを除いてメインテーマ中のライトモティーフの変奏曲になっている。
このくどいくらいの使い回しが一度このメロディの虜になった者には堪らない。
メインテーマはむしろ他の曲の美味しいところを盛り込んだダイジェストとも言える。そういう意味では喜歌劇こうもり序曲に似ている。
メインテーマの2つめのライトモティーフは他の曲の中の「人~賛歌」(人とは天地人の人)のダイジェストである。「人~賛歌」は大河ドラマ第2回で喜平次(後の上杉景勝)が与六(後の直江兼続)を背負って歩くシーンの音楽だ。与六と喜平次の、兼続と景勝の、家臣と主の、北斗七星と北極星のライトモティーフである。
またメインテーマ1つめと3つめは揺るぎないもののライトモティーフで、憧れの上杉謙信や恐るべき魔王の織田信長の象徴である。これは後に主人公直江兼続が信頼と敵対を織り交ぜて最終的に直江状を叩きつける相手の徳川家康の伏線とも言える。したがってそれに挿まれた2番目の(兼続と景勝の)ライトモティーフは兜の愛の前立てに象徴される兼続の信念(領民愛、郷土愛)を表しているとも言える。(ちなみに愛の前立てとは兼続の兜に付いている「愛」という文字のことで、愛染明王、愛宕権現または敬天愛民の意味合いがあったとされる)
しかし中でも傑作の曲は、上記ライトモティーフ以外の完全オリジナル曲の中の「冒険心」と「美しき躍動」という2曲。「冒険心」が少年の、すなわち直江兼続の、「美しき躍動」が少女の、すなわち後の兼続夫人のお船のライトモティーフであることは明らかで、しかもこの両者はどこか似ている。兼続夫妻は似た者おしどり夫婦であること、少年少女は似ていること、の象徴だ。そしてこの両曲の持つレトロな雰囲気は、時代劇と言うよりはどこか両大戦間の大正ロマンの「はいからさん」の雰囲気である。懐かしさが充溢している。
「天地人」はこのようにライトモティーフ的な一連の楽曲群であるがライトモティーフだからといって決してワーグナー風というわけではない。管弦楽法はツェムリンスキー的、あるいはマーラー的である。
ライトモティーフ的でない、次々と新しい曲想が出てきてほぼ全て別の曲想で出来ている曲想の宝庫という意味では最近の大河ドラマでは「篤姫」の音楽(吉俣良作曲)が挙げられる。次々と別の曲想が出てきて反ライトモティーフ的な意味合いではこれまたマーラー的である。しかし底流には一貫して大きな1つのライトモティーフがあるようにも聴こえる。言うなれば「意志」のライトモティーフだろうか。
さらにその一つ前の大河ドラマ「風林火山」(千住明作曲)は曲想は別なのだがなんとなくライトモティーフがぐるぐる回っているような感じである。ライトモティーフと循環形式を組み合わせたものと言えるだろう。