2015年9月12日土曜日

演奏会聴取記録・2015年6月23日 ピアノによるマーラー交響曲第6番、7番

○ピアノによるマーラー交響曲集第三回公演
開演:2015年6月23日18:30
会場:渋谷・公園通りクラシックス
曲目:
マーラー/交響曲第6番イ短調「悲劇的」(ツェムリンスキーによる四手連弾版)
マーラー/交響曲第7番ホ短調「夜の歌」(カゼッラによる四手連弾版)
ピアノ演奏:大井浩明(1st)、法貴彩子(2nd)

会場に一柳慧氏出現!

マーラー/交響曲第6番イ短調「悲劇的」(ツェムリンスキーによる四手連弾版)
音源は持っているのですが生だと全然違う。
しかも音源と異なり第3楽章がアンダンテ。
こちらの楽章順がツェムリンスキーのスコア原譜通りだという…
演奏は強烈なタッチの凄演。
縦の線が一致するような編曲。なので旋律線は見えにくく、第1楽章の有名なアルマのテーマ(第2主題)もなんとなく通り過ぎてしまった。旋律線がはっきりするのはアンダンテ楽章(今回の第3楽章)。で今回の演奏の白眉もずばり第3楽章…
編曲とは言え原譜に忠実で新たな音の付加はないと思われるが、どことなくツェムリンスキー節が聞こえる。原譜から音を選ぶのは編曲者の裁量なので、ツェムリンスキー好みの音が選ばれたのかもしれない。縦の線の連携が強調されたのと相まって、ツェムリンスキー風表現主義的6番、という感じ
今回は素人向け?に、ハンマーの位置で跳ぶ(足を踏み鳴らす)という演出があった(3回)が、じゅ。も素人なので2回目から一緒に足を踏み鳴らしました。
ピアノは減衰音で漸増しないので音が生じたらすぐ次の音に移行するせいか、全体に管弦楽より速い演奏(21、10、12、26分)。

マーラー/交響曲第7番ホ短調「夜の歌」(カゼッラによる四手連弾版)
こちらは楽譜は持っているけど音になったのを聴くのは初めて。
第6番と異なりこちらは横の線(旋律線)が繋がるような編曲。よって演奏も第6番より流麗な感じがする。
こちらは徹頭徹尾マーラーしか聞こえてこない音楽。しかし決して音が薄くなることはなく、線がいくつもの紗になって流れていくような演奏。
またカゼッラはパリ在住が長くフランス印象派との関係が深いためか、印象派的な処理を感じた。特に、パリで同窓であるラヴェルのサークルにいたためかラヴェル風なところもあり、第3楽章などはその典型だ。
それでいて、のちに彼が新古典主義に傾倒したことの萌芽のように第5楽章はネオ・バロック感が満載であり、管弦楽の華やかな楽器をそぎ落とした今回のピアノ演奏は典雅ですらあり第5楽章だけはチェンバロで演奏しても差し支えないのではないかとさえ思った。
第6番よりさらに速い演奏(19、12、9、9、17分)。

この両者を比較すると、第6番四手版は管弦楽初演前にツェムリンスキーがマーラーと連弾した等の記事を読むにつけ、ツェムリンスキーがいかにマーラーに心酔していたかがわかる。しかも編作は換骨奪胎の趣きあり、マーラーとツェムリンスキーはほぼ対等の関係にあった気がする。今回の演奏を観ると1stと2ndは激しく腕を交差させており、まさか同性への愛とまではいかないだろうが相互の対等な深い信頼関係がうかがえる編作となっている。これに対し、第7番は原曲に非常に忠実に作られており、カゼッラがこの曲自体に心酔していなければここまでの忠作はありえない。一方マーラーその人に対しては、今回のプログラムには詳細は書かれていないがヴィニャルのマーラー評伝(海老沢敏訳)によればマーラー復活パリ公演の際はパリのカゼッラ邸で復活が連弾で試演され、第8番のミュンヘン初演にも立ち会ったカゼッラであるから、マーラーその人への心酔も当然のことあったろう。今回の演奏を観ると1stと2ndの交錯はほとんど無く、第2・4楽章の一部と第5楽章のメリー・ウィドウのところで申し訳なさそうに少し交差するだけである。旋律線を乱さないための配慮とも取れるがおそらく復活をマーラーと一緒に連弾試演したであろうカゼッラが1stをマーラーに見立てて決してマーラーの領域に踏み込まない姿勢を見せているとも取れる。つまりカゼッラにとってマーラーへの心酔は尊敬であり遙かに憧憬のようなものであろう。そしてその編作にはプロの作曲家の技以上に憧憬に似た心酔の痕が聴き取れるのである。

この日はアンコールになんとマーラー/交響曲第8番「千人の交響曲」第1部!
こんな僥倖があろうか…
第8番はその巨大編成ゆえなんとなく聴いているとホモフォニック的に聴き流してしまうが本日のようにピアノまで削ぎ落とすと異様にポリフォニックな音楽であることが明確に聴き取れる。
やはりバッハのカンタータのようであり、第7番のネオ・バロックの趣と立て続けに聴くことは興味深い…
どちらのかたの編曲家はわからなかったが児童合唱の節まで細かくピアノに織り込まれた優れもの。合唱の節回しと前述のポリフォニック、カンタータ風の晴れがましさは、まさに「光もて五感を高め!」に相応しい。

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